研究概要 |
前年度までの研究によりWistar系雄性ラットに門脈枝塞栓術を行うと、非塞栓肝葉では肝細胞のオルニチン脱炭酸酵素の誘導とポリアミン代謝の活性化に伴い、DAN合成や細胞分裂が惹起され、その結果非塞栓肝葉の再生がみられることが明らかとなった。本年度はA群;70%流域肝切除群、B群;門脈枝塞栓術7日後に塞栓領域の切除を行った群、C群;30%領域肝切除群、D群;Sham手術群を作製し、それら各群のbromodeoxyuridine標識率、mitotic index、肝組織中過酸化脂質や各種肝機能検査値の変動を比較検討した結果、以下の成績を得た。門脈枝塞栓術による非塞栓肝葉の再生はその7日後にほぼ完了し、塞栓流域の切除により再び再生が開始された。B群の肝切除後再生速度はA群に比較し有意に緩徐であった。B群のbromodeoxyuridine標識率やmitotic indexはC群に比較しやや高かった。肝組織中過酸化脂質はD群を除く各群で上昇したが、その程度はA群で最も著明であった。GOT,GPT,総ビリルビンの賀来値は術後A群で最も上昇した。またA群のみで術1日後にプロトロンビン時間の延長とアンチトロンビンIII活性値の低下がみられた。以上より、門脈枝塞栓術によって再生した非塞栓領域の肝はその重量増加にみあって再生能や肝機能予備力を有することが明らかになり、肝切除後の安全性の向上と切除適応の拡大における肝切除術前門脈枝塞栓術の有用性が確認された。
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