研究概要 |
前年度までの研究により,Wistar系雄性ラットに門脈枝塞栓術を行なうと非塞栓肝葉では肝細胞のオルニチン脱炭酸酵素の誘導とポリアミン代謝の活性化に伴い,DNA合成や細胞分裂が惹起され,その結果非塞栓肝葉の再生が見られることが明らかとなった.また肝切除に先だってあらかじめ肝切除予定領域の門脈枝塞栓術を施しておくと,肝切除後のエンドトキシン静注による肝傷害の軽減や生存率の改善がなされることが明かとなった.そこで本年度は門脈枝結紮術後のラットを経日的に犠牲死させ,肝潅流固定後に光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて結紮およびう非結紮領域を観察した.まず結紮肝葉では中心静脈近傍の肝細胞壊死とそれに引き続く肝細胞のapoptosisが起こり、肝細胞の索状構造の再構築が起こる。その結果、肝小葉は全体的に縮小する。また類洞壁細胞の変化をみると、門脈枝結紮術後、壊死に陥った肝組織を中心にマクロファージ系細胞の集積が起こり、壊死細胞を貪食する。伊東細胞の集積もみられ、デスミンの増加に伴い軽度の線維化が生じる。これらの変化は結紮2日から10日後にみられ、肝細胞の再構築が完成することには術前の状態にもどる。長期的にはクッパー細胞数やリンパ球数は減少し、それらの貪食能も低下する。一方、非結紮肝葉では肝細胞の分裂以外に術3日後から2週後にかけてクッパー細胞数の増加がみられ、貪食能も維持されている。また伊東細胞には著名な変化がみられなかった。以上の点が本年度の研究により明かとなった。 今後、門脈枝塞栓術後長期間でのこれらの変化と類洞壁細胞の機能面からの研究を要すると考えられる。
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