経皮経肝門脈枝塞栓術による肝切除の適応拡大について実験的に検討した。まずWister系ラットを用い、70%肝領域の門脈塞栓術(門脈結紮術)を行い、肝細胞のmitosis、DNA合成、肝組織ポリアミン量やオルニチン脱炭酸酵素(ODC)活性を測定した。その結果正常肝においては門脈塞栓術後、非塞栓肝葉の肝細胞mitosis、DNA合成やODC活性は正常ラットおよび肝硬変ラットとも上昇した。しかし正常ラットに比べ肝硬変ラットではそれらの上昇の程度は低く、また遅延した。肝組織ポリアミン量のうちプトレッシンおよびスペルミヂン量も増加した。また肝切除後エンドトキシンを静注すると、門脈塞栓術併用肝切除群では非併用群に比べ、肝組織中過酸化脂質や肝機能の変動は小さく、肝組織の障害の程度も小さかった。その結果併用群では非併用群に比べ生存率が高かった。門脈枝結紮術後の肝組織をみると、結紮肝葉では中心静脈近傍の肝細胞壊死とそれに引き続く肝細胞のapoptosisが起こり、肝細胞の索状構造の再構築が起こる。その結果肝小葉は全体的に縮小する。また壊死に陥った肝組織を中心にマクロファージ系細胞の集積が起こり、壊死肝細胞を貧食する。長期的にはKupffer細胞数やリンパ球数は減少し、それらの貧食能は低下する。一方、非結紮肝葉では肝細胞の分裂以外にkupffer細胞の増加がみられ、貧食能も維持されている。以上の結果から門脈枝塞栓術は硬変肝においても肝再生は誘導するものの、その程度は正常肝に比べ小さいこと、術前門脈枝塞栓術は肝切除の侵襲に対して防御的に働き、ひいては肝切除の安全性を向上と手術適応の拡大において極めて有用であることが明らかとなった。
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