研究概要 |
癌の増殖と悪性化に対する活性酸素の役割を大腸癌症例を用いて臨床的に検討した。平成5年度は、切除標本の癌部、癌隣接部、非癌部の3点の組織内SOD活性、TBA反応物質を測定し、病理組織学的パラメーターおよび核DNA量と比較。平成6年度は、癌組織内のCu、ZN-SODの局在を免疫組織学的に検討した。その結果、下記のことが示唆された。 平成5年度:(1)癌部のSOD活性は、stageの進行したものほど高値であった。(2)癌部が隣接部や非癌部に比べ高いSOD活性を示した。(3)癌部では壁深達度が進むとSOD活性は高くなり、癌隣接部ではsm,pm癌で最も高く、深くなるほど減少した。(4)病理組織学的パラメーターの中では静脈侵潤陽性群のSOD活性が陰性群に比べ有意に高い値を示した。(5)核DNA量はSOD活性が増加するとaneuploid patternを示すものが diploid patternより多くなった。(6)Proliferation indexはSOD活性が低下するほど高くなる傾向を示した。平成6年度:癌部のCu,Zn-SOD染色の程度が非癌部より強いものをA群、弱いものをB群として検討した。(1)A群は全体の58%を占めた。(2)A群のSOD活性値は、B群より高く、両群間に有意の差を認めた。(3)A群のTBA反応物質は、B群より低かった。(4)proliferation indesとploidy patternはA,B両群間で有意の差がなかった。 以上より、癌部のSOD活性はCu,Zn-SODの局在と必ずしも連動せず、SODの局在は生物学的悪性度と反映しない。しかし、癌部のSOD活性は静脈侵潤、cell ploriferationや悪性度と関係する。したがって癌部の抗酸化機構の解明は、癌治療上、重要な戦略となる。癌部、非癌部のSOD活性の測定は、活性酸素により効果を発揮する抗癌剤に対する感受性や放射線治療の効果を予測するパラメーターとしてだけでなく、これ等の治療による正常組織の障害を治療前に予測するうえで有用である。
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