研究概要 |
食道癌手術侵襲により刺激されたサイトカイン産生細胞は血中にインターロイキン6やgranulocyte colony stimulating factor(GCSF)を一過性に放出する。他の消化器癌手術に比べ高度であり、とくに術後臓器障害合併症例で有意に高濃度であった。サイトカインは好中球、マクロファージ、内皮細胞を活性化し、フリーラジカルであるスーパー・オキシドや一酸化窒素(nitric oxide)を産生し、脂質過酸化反応を介し、主に細胞膜障害を来すことが明らかになった。抗酸化剤であるビタミンE、ステロイドなどの予防投与は、侵襲によるbeta-カロチン、alpha-トコフェロールの低下、サイトカイン、フリーラジカルの産生を抑制し、術後の合併症を低下させた。非感染時にはスーパー・オキシドは細菌感染を、一酸化窒素は血管を拡張させ、呼吸不全の発生を防ぐことが報告されている。しかし、術後感染や免疫機能低下合併例では抗酸化剤の効果は限りがあり、フリーラジカル産生の制御は困難なことが多い。さらに通常では互いにその作用を打ち消す働きをしているスーパー・オキシドと一酸化窒素は、過大な侵襲後では、その相互作用により、新しく強力なフリーラジカルを産生することが示唆された。これらの新しいフリーラジカルは過酸化亜硝酸(peroxynitrite,0N00^-)などであることが最近報告され、実際に組織中で好中球による内皮細胞障害から循環不全を来す。しかし、これらの新しいフリーラジカルが産生される条件、代謝、障害の強さ、など不明であり、今後本研究による検討から解明される可能性がある。
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