研究概要 |
大きな手術侵襲は創部においてマクロファージを刺激し、サイトカインであるTNF-αは、さらにマクロファージ自身や好中球を活性化し、スーパーオキシドや一酸化窒素(NO)などのフリーラジカルの産生を亢進する。 これらのフリーラジカルは脂質過酸化反応により臓器を障害する。この障害は多臓器不全(MOF)の病態と類似している。実際、食道癌手術後の、合併症のみられない対照群と多臓器不全(MOF)合併群で比較すると、対照群ではサイトカインは術直後にピークとなり、急速に低下を示すのに対し、MOF合併群では異常上昇あるいは遷延することが明らかとなった。さらに、MOF合併群では、過酸化脂質、スーパーオキシド、NO、抗酸化物質であるSODともに上昇し組織障害と相関を示した。しかし、対照群ではサイトカインにより誘導されるNOは術後3病日一過性に上昇し、尿量を増加させ心拍出量や肺動脈圧の低下に働き、呼吸・循環動態を安定させる。ステロイドホルモンであるグルココルチコイドやビタミンEの投与はサイトカイン、フリーラジカルの産生を抑制し、手術侵襲を軽減させた。最近、炎症、放射線などの酸化ストレスは、アポトーシス(細胞死)を引き起こすことが報告され、細胞内においてフリーラジカルとともに抗酸化物質(SOD、カタラーゼ)も同時に産生されアポトーシスを抑制すると考えられている。術後合併症例ではフリーラジカル,SODともに術前の5-6倍に上昇しリンパ球は有意に低下した。以上大きな手術侵襲後は、サイトカインにより創部においてマクロファージが活性化し、さらに好中球を刺激し、標的臓器に集積し組織を障害する。抗酸化物質はその消去に働くが、生体防御はこれらのバランスにより恒常性をたもつと考えられ、酸化ストレスの軽減とその制御の重要性が示唆された。
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