食道癌根治術後にサイトカインであるインターロイキン-6、granulocyte colony stimulating factor(G-CSF)はピークとなり以後急速に低下した。これらのサイトカインはさらに好中球、マクロファージ、内皮細胞を活性化しフリーラジカルである活性酸素、NOの産生を亢進させ、一過性に細胞を障害した。しかし、合併症のみられない例では、感染の予防や心拍数出量、肺動脈圧の低下など循環動態を改善し、防御能の亢進に働くと考えられる。一方、術後合併症例では術直後からサイトカインの過剰な上昇あるいは低値がみられ、発生後は高値を持続した。さらに、スーパーオキシド、NOは術前の約4〜5倍に上昇し、細胞障害から臓器障害を引き起こすと考えられた。 以上の事実から、術後合併症は過大な侵襲すなわち異常な生体反応による炎症性メディエータの産生亢進により発生し、生体におけるメディエータ産生とその消去のバランスの重要性が示唆された。最近、フリーラジカルは脂質過酸化反応による障害ばかりでなく、直接核に働きリンパ球などのアポトーシス(細胞死)を誘導する事が知られ、今後、術後の免疫能低下との関連およびその機序の解明が待たれる。さらにメディエータ産生の制御は合併症の発生を低下させ、安全な手術を可能にし、手術成績の向上に役立つ。
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