平成6年度の研究では大きな成果は達成できなかった。人工血管の内面にキチンまたはキトサンのゲルをコーティングし、有孔性のキセロゲルとしてここに血小板や白血球などの血液細胞を粘着させた人工血管をもちいての動物実験を計画し、この人工血管の作成に時間を費やした。しかし、人工血管内に均一のコーティングを作成することができなかった。これはゴアテックス人工血管の孔径が小さすぎ、粘調なキトサン溶液がこの孔に十分浸透できないため、ゲル化およびキセロゲル化の過程で脱落してしまうのが原因であると考えられた。また細胞培養系の装置や実験環境を整備することにも時間を費やしたため成果をあげるまでにはいたらなかった。 これまでの経験をふまえて、今回人工血管としてスポンジバイオマ-人工血管を作成した。これは食塩の粒子をバイオマ-と混合し、あとから粒子を溶解させることでスポンジ状のバイオマ-人工血管を作成する方法である。人工血管は2種類作成した。1つは外面を1層のソリッドバイオマ-面で被覆したもので、この人工血管では吻合部か流血中からしか細胞の進入が期待できない。もう1種類は全層スポンジバイオマ-で、このタイプでは細胞の進入は新生血管が人工血管周囲の組織より人工血管壁を通して進入でき、細胞の進入が期待できる。この人工血管にキトサンゲルを粘着させた。 本年度はこうした人工血管の作成に主に時間を費やした。この人工血管のキトサンゲルに細胞増殖因子を添加したものとしないものを、家兎の腹部大動脈に移植する実験はまだ始まったばかりで結果は最終年度に報告する。
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