平成5年度に心拍変動曲線の時系列解析により粗視化法を利用して自律神経機能を評価する方法を検討した。この成果を基に平成6年度は、心拍変動をもたらす機序について検討を行った。脳死症例では自律神経よる変動成分は消失し、1/f^αの揺らぎ成分のみであることを報告し、これより心拍変動は基本的に、心拍の自動能のもとである心房の洞結節の持つ機能に自律神経の影響が加わり修飾されたものと考えられた。生体の要求に対応した瞬時の生理的な心拍数の決定機構を解明することは、ペースメーカーや人工心臓等のME機器において重要な課題である。心拍変動の波形は、ラジオやテレビジョンの電波の様に、洞結節の自動的な1/f^αの揺らぎを示す搬送波に、自律神経の成分が変調されたものと考えることが出来る。このため復調により自律神経の波形を再現することをcomplex demodulation法で行い、これを発表した。心房の洞結節の自働的な電気信号の発生は洞結節の機能であり、洞機能の基本的な活動状態つまり洞結節のエネルギー代謝を反映しているのではないかと推測された。肝細胞のredox stateはミトコンドリアにおけるエネルギー産生状況を示す指標であり、これに相関した動脈血ケトン体(AKBR)は、肝細胞のみならず全身の臓器のエネルギー代謝の状態を示す指標と考えられている。そこでAKBRの日内変動について検討を行ったところ、AKBRの日内変動のパワースペクトルは数時間の周期を境として、これより長周期では1/f^αの揺らぎを示し、これより短周期では1/f^αの揺らぎは認められなかった。このことから心拍変動は基本的に生体のエネルギー代謝を反映して1/f^αの揺らぎになっていることを報告した。
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