心拍変動は自律神経機能の影響を反映しているので心拍変動より自律神経機能を定量的に評価する方法について検討を行った。毎心拍のR-R間隔をプロットして心拍数の時系列曲線を描き、一定期間のパワースペクトルを算出し、粗視化法により1/f^αの揺らぎ成分を除去し自律神経による変動成分を残した。この自律神経成分は0.04〜0.14H_zの低周波成分と0.16〜0.46H_zの高周波成分より成り、福交感神経は高周波成分に交感神経は低周波成分と高周波成分の比で示される。5〜20分の期間の時系列曲線の解析結果を、この期間の自律神経機能の平均値と考え、この平均値をプロットし自律神経機能の日内変動曲線を求めた。自律神経の日内変動は、福交感神経機能では、夜間に亢進し昼間に低下していて、福交感神経の変動にも1/f^αの揺らぎを認めた。自律神経失調症の一つと考えられている排尿性失神の患者では、自律神経の日内変動に健常人の揺らぎパターンは認められず、突発的な福交感神経の亢進が見られた。脳死患者の心拍変動のパワースペクトルは自律神経成分のピークは消失し、1/f^αの揺らぎ成分のみであった。心拍の自立性は洞結節の機能を示し、洞結節のエネルギー代謝の変動を反映するのではないかと推測された。このため肝細胞のミトコンドリアのエネルギー代謝を示す動脈血ケトン体比(AKBR)の日内変動を検討した。AKBRの日内変動曲線のパワースペクトルは、数時間を境界としてこれより長周期では1/f^αの揺らぎを示し、短周期では認められる二源性の変化が認められた。心拍変動の1/f^αの揺らぎは生体のエネルギー代謝の1/f^dの揺らぎを反映しているのではないかと考えられた。またこのエネルギー代謝の揺らぎは生体時計の根元ではないかと推測された。
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