雑種成犬を用いて、全身麻酔下に、人工心肺装置を装着し、25℃中等度低体温まで冷却した後、脳灌流を行った。灌流法は、順行性脳灌流及び逆行性脳灌流の各方法で行った。あらかじめ大脳皮質感覚野を露出し、体性感覚誘発電位(SEP)導出用の電極を固定し、右上肢正中神経の電気刺激より、SEPを記録した。順行性脳灌流は、体外循環開始前の弓分枝の血流の約2分の1の血流量で灌流し、逆行性脳灌流は両側内顎静脈より外静脈圧が20mmHg以下であるように流量を調節しながら灌流を行った。灌流時間は90分間行い、30分、60分、90分、及び加温時にSEPを記録した。 順行性脳灌流では経過中にSEPの波形が消失することはなかった。また、脳灌流後、通常の体外循環にて38℃まで加温を行うことにより、amplitude及びlatencyも体外循環前の値にほぼ回復した。しかし逆行性脳灌流では、30分時点でSEPの波形は消失し、脳灌流後の加温を行っても、SEPは回復することはなかった。この結果より、最近、弓部大動脈瘤手術時に用いられるようになってきた逆行性脳灌流も25℃中等度低体温では、十分な脳保護効果が認められないことが示唆された。 今後は、脳酸素代謝、病理組織学的面からの検討も行う。さらに、20℃超低体温下において順行性及び逆行性脳灌流法の比較検討を電気生理学的機能、酸素代謝及び病理組織学的面より行い、循環停止法との比較も加えて行っていく予定である。
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