昨年までの研究で、我々は、弓部大動脈手術における選択的脳灌流法の至適灌流量について、電気生理学的脳機能法を用いて報告してきた(札幌医学雑誌、61、1992)。 本年度は、同様に、電気生理学的脳機能法を用いて、逆行性脳灌流法、選択的脳灌流法および低体温下循環停止法のそれぞれの方法について、比較検討を行い報告した(札幌医学雑誌、63、1994、胸部外科学会総会発表、アジア心臓血管外科学会発表、外科学会総会発表予定)。最近、本邦において逆行性脳灌流法が導入され臨床的には良好な結果が報告されているが、実験的データーは少ない。また、弓部大動脈手術時の補助手段につては一定の見解はいまだ得られていなく、より安全な脳保護法を確立することは重要である。今回の研究で、以下の結果を得ることができた。1.90分間25℃の選択的脳灌流法では、生理的流量の50%あれば脳機能に異常を認めず安全に行える。2.逆行性脳灌流法では大脳皮質に有効な組織血流量が得られなかった。3.90分間25℃循環停止法では脳機能、酸素代謝、エネルギー代謝、病理組織学的変化からみて、その脳保護効果は不十分であった。4.90分間20℃の逆行性脳灌流法では25℃と比較して、低温による脳保護効果は認められたものの、その脳保護効果は不十分であった。5.以上の結果から、90分間の脳保護効果を必要とする弓部大動脈癌手術においては選択的脳灌流法が最も安全な補助手段であった。さらに逆行性脳灌流法について、その許容時間についての検討も行った(未発表データー)。
|