研究概要 |
1.コントロール(成人開心術症例) 成人開心術15例よりコントロールのデータが得られた.そのうち10例に眼動脈血流および総頸動脈血流測定と同時に電磁血流計を用いた腕頭動脈血流量の測定を行いえた.その結果,体外循環前の眼動脈最大血流速(OAVmax)は0.22±0.12m/sec,総頸動脈最大血流速(CAVmax)は0.61±0.41m/sec,腕頭動脈血流量(BAflow)は492±211ml/minであった.体外循環前値を100%とする体外循環中の灌流量を2.4,2.2,2.0,2.2,2.4l/min/m^2と変化させ,さらに体外循環後まではOAVmaxは65.3,56.5,42.0,57.9,73.6,117.5%,CAVmaxは70.4,69.0,49.2,113.6,140.9%,BAflowは84.3,39.5,59.7,50.5,113.1,144.9%と変化した.この結果,眼動脈血流速は総頸動脈血流速,腕頭動脈血流量より体外循環の灌流量の変化に応じた推移を示すことがわかった.これは同時に検討した末梢血管抵抗の変化から,体外循環中では眼動脈の血管抵抗の変化が小さく,眼動脈血流速は体外循環血流量に規定されるためと考えられた.したがって,体外循環中は眼動脈血流速の変化は灌流量の変化を示し,脳内血流動態のモニターとして有用であることがわかった. 2.弓部大動脈瘤症例 弓部大動脈瘤で脳分離体外循環を必要とした症例は本年度は1例のみであった.術中に近赤外線分光法による脳組織酵素分圧の測定,動静脈血中のガス分析,末梢血中の乳酸値の測定が施行できた.この結果からは一側脳灌流中は非灌流側でも脳組織酵素需要に対して十分な脳循環が保たれていることがわかり,さらに灌流側と非灌流側では動静脈血中のガス分析,末梢血中の乳酸値には差がなかった.しかし,眼動脈血流の測定は検討に十分なデータが得られず眼動脈血流の有用性は検討できなかった.今後も脳分離体外循環でデータ収集を続け,一側脳灌流法の有用性を明らかにしていくつもりである.
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