研究概要 |
アクリルを用いたラット固定用の枠の開発は予想以上に困難で,アクリルではその柔らかさのゆえに,再現性をもって正確に目標部位を定めることが困難であった。精密な固定用の装置には金属を用いた方がよいと思われるが,一方で放射線吸収の問題があり,金属の種類も選択する必要がある。 この固定用の枠を用いて少数のラットをガンマナイフで照射した結果は,正常の脳組織では,40Gy未満では6ケ月以内には組織的障害が起きないこと,40Gy以上100Gy未満では照射後数日を経てから血管透過性の変化が出現し,その後神経細胞の壊死が起こり最終的にgliosisに陥ること,100Gyの照射ではほぼ照射部位に限局した組織壊死がみられることが判明した。大脳,小脳,脳幹のそれぞれの部位間では,6ケ月間の観察では感受性に差はみられていない。 照射後の組織学的変化は,過去にはまず内皮の変化が起こり,それに引き続いて内皮下組織の増殖が起こるとされてきたが,前年度の研究および臨床経験における部検例などからは,変化の主座はまず内皮下組織,とくに平滑筋層であり,血管外膜周囲には炎症所見がみられること,静脈の成分はほとんど変化しないこと,がわかった。これより考えられることは,照射後の血管閉塞は主に血管周囲での炎症が主体であり,内皮は直接の関係がない可能性が示唆された。 形態上の変化とは別に,機能上の変化がどの程度の線量で生じるか,も重要な問題である。ラットの両側海馬を照射した実験では,10Gyの照射ですでに学習能力の低下を認めており,この線量では3ケ月間の観察では海馬の神経細胞の形態学的な変化を認めなかった。これは,神経細胞の壊死を起こす線量よりも少ない線量で神経細胞としての機能が抑制されることを示唆しており,てんかん外科の代用としてのradiosurgeryの可能性が考えられる。低線量で照射された細胞が,いわゆるapoptosisの過程を経て通常より早期に死滅するのかどうかが今後の興味ある点と思われる。
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