研究概要 |
サルを用いて、右側中大脳動脈周囲に凝血塊を置き、クモ膜下出血を作製した。クモ膜下出血作製前、1週間後、2週間後に脳血管撮影を施行して脳血管攣縮の経時的推移を評価した。クモ膜下出血1週間後では、右中大脳動脈は約50%の血管径の減少を(脳血管攣縮極期)、2週間後では約20%の血管径の減少(攣縮寛解期)を示した。 プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー(^1H MRS)を用いて、脳血管攣縮の各時期における攣縮動脈灌流域の脳組織での神経細胞の代謝の障害を観察した。クモ膜下出血前、クモ膜下出血1週間後、2週間後の各時期において両側頭頂葉に設けた関心領域(1cm^3)より^1H MRを記録し、組織でのacetylaspartate(NAA),creatine,choline,lactateの存在比をそれぞれのスペクトルムの面積比として算出した。脳血管攣縮極期において、攣縮動脈灌流域である右側頭頂葉ではNAA/creatine比、choline/creatine比の有意な低下が認められた。攣縮寛解期ではNAA/creatine比の低下はより著明となった。しかしながら、脳梗塞の発生を示唆するlactateの出現は軽微であった。 我々のこれまでの研究結果として、攣縮動脈の灌流域脳組織における脳血流の低下とその自動調節能の低下が示された。今回の^1H MRSの結果は、攣縮動脈灌流域でのこのような脳循環障害の状態は、脳組織の神経細胞の選択的かつ不可逆的な虚血性障害を引き起こすことを示唆した。
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