サルの脳血管攣縮モデルを用いて研究を行い、以下の結果を得た。 (1)攣縮動脈の灌流域では、脳血流の低下とその自動調節能の消失が示された。 (2)NMR装置を用いて、31P-MR spectroscopyの方法により、脳組織でのリン化合物の代謝の変化を観察した。攣縮動脈の灌流域脳組織では、平均血圧の下降にともない、ATPと有機リンの減少、無機リンの増加が示された。低血圧の持続は、攣縮動脈灌流域での高エネルギーリン化合物に著しい枯渇状態を引き起こす事が観察された。 (3)攣縮動脈灌流域での神経細胞の代謝の変化を1H-MR spectroscopyの方法を用いて観察した。両側頭頂葉よりプロトン・スペクトロスコピーの測定を行ない、Choline-containing compound(Cho)、creatineとphospho-creatineの総和(Cr)とN-acetyl-aspartate(NAA)の組織レベルを計算した。攣縮極期の攣縮側頭頂葉では、Choレベルは有意の上昇を、NAAレベルは有意の低下を示し、攣縮の寛解期にてもNAAレベルは有意の低下が持続して観察された。 (4)MRスペクトロスコピーの測定後に、灌流固定、脳を摘出し、病理組織学的検索を行った。H-E染色では、SAH作製7日、14日後の攣縮側の大脳半球においても明らかな脳梗塞巣は観察されなかった。Cresyl violet染色では、攣縮脳動脈の灌流域の頭大脳皮質さらにはwater-shed領域の一部の神経細胞に虚血性壊死像が認められた。 以上の結果より、脳血管攣縮動脈灌流域の脳組織では、脳血流の低下にくわえ、そのエネルギー代謝は危機的状態にある。この状態下では、灌流域大脳皮質の神経細胞の一部には虚血性の障害が及ぼされている事が推測された。
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