研究概要 |
脳内温度の脳組織に対する影響については近年多くの注目を集めている。たとえば、低体温は脳虚血やその他の脳侵襲に対し保護作用を有することが再認識され,低体温麻酔が見直されているし、脳の悪性腫瘍に対しては高温下で選択的に腫瘍傷害作用が見られることから温熱療法の臨床応用が試みられている。こういった低温,高温環境下での脳代謝に対する影響についてはいろいろと研究がなされてきたが脳循環に対する影響,特に脳血管自体に対する影響についてはほとんど知られていない。そこで脳循環調節に最も強く関与するといわれる脳内微小動脈において、低温,高温環境がいかに影響するかについて検討を加えた。 【方法】ラットより脳切片を切出し脳軟膜を剥離すると軟膜動脈と一緒に脳内微小動脈(平均径約60μm)を摘出することができる。これを顕微鏡下に我々の作製したガラスピペットにてカニュレーションした。溶液のpHは7.3に保ち血管内圧を60mmHgに設定し温度を37.5℃へ上昇させると血管は収縮した後、安定し、ここで実験を開始した。【結果】温度を35から20℃まで徐々に低下させると血管は次第に拡張し血管径は最大146.3±3.7%まで拡張した。この時、KCl(120mM)やprostaglandin F2a(10-4M)に対する反応性は著明に低下した。一方、40から45℃まで温度を上昇させると、脳内微小動脈は2相性の反応を示し、一過性の収縮の後に拡張した。また、血管を45℃に30分間晒すと不可逆的な損傷を受け、37.5℃へ戻しても反応性は回復しなかった。ところが、カルシウムイオンを取り除いた溶液内では37.5℃へ戻すと血管の反応性は回復した。【結論】脳血管は環境温度の変化によって拡張、収縮といった反応を示す。また、高温環境下では、血管は不可逆的変化を示すが、これは細胞内へのカルシウムイオンの過剰流入が原因と思われ、カルシウムイオン除去液の中では血管反応性は温存された。以上より、低体温麻酔や温熱療法によって脳の環境温度を変化させると脳循環は大きく影響をうけること、また特に温熱療法時はカルシウムイオンの過剰流入が起こりうることが示唆された。
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