研究概要 |
平成5年度の研究において破裂脳動脈瘤と未破裂脳動脈瘤に対する動脈瘤壁の抗平滑筋アクチン抗体を用いた組織学検討により両者の間に明らかな差が存在することが明らかとなった.未破裂動脈瘤では動脈瘤壁に多数の平滑筋細胞が存在した.これに対し破裂動脈瘤の動脈瘤壁では平滑筋細胞を含め細胞成分に乏しくまた細胞外マトリックスのコラーゲン タイプI,IIIともに著しく減少し壁としての強度が乏しいと考えられた.また未破裂動脈瘤であっても破裂動脈瘤に合併したものは動脈瘤壁の組織学的所見は破裂動脈瘤と同様に平滑細胞の変性を認めた.こうした差が遺伝子レベルにて固体により決定され本質的に破裂しやすい動脈瘤と破裂しにくい動脈瘤が存在するのか,様々なアプローチにて現在まで検討中であるが明確な解答は得られていない,また頚動脈閉塞を伴った脳動脈症例の臨床的検討により血行力学的なストレスが動脈瘤の成長,破裂に関与する可能性が明らかとなった.そこで平成6年度においては,動脈瘤壁の病態の検討とともに走査電子顕微鏡を用いて血行力学的ストレスを直接受ける動脈瘤の内腔の病態を検討した.未破裂動脈瘤瘤内は血管内皮細胞にて被われているのに対し,破裂動脈瘤瘤内では血管内皮細胞は断裂し動脈瘤壁への炎症細胞の侵入を認めた.すなわち動脈瘤内腔における血管内皮細胞障害が発生すると動脈瘤壁への炎症細胞の侵入それに続くサイトカインなどの作用により二次的に平滑筋細胞を含む動脈瘤壁の変性,傷害を生じる可能性も考えられることが明らかとなった.巨大動脈瘤を除く未破裂内頚動脈瘤で動眼神経麻痺にて発症した症例の術中所見を検討すると,単なる動眼神経への動脈瘤の圧迫のみでは動眼神経障害をきたしにくく,動脈瘤壁が極めて薄くなり動眼神経へ密接に接触することにより神経障害を生じている可能性が明らかとなった.
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