研究概要 |
小児悪性脳腫瘍ではMedulloblastomaで約34%、ependymomaで約22%、他のgliomaでは約47%に変異p53遺伝子産物の発現を認め、in situ hybridizationによる変異p53遺伝子の発現と相関していた。同時に増殖関連抗原を認識するMIBI抗体の反応性を検討したが、MIBI陽性組織では変異p53遺伝子産物の発現率が高く、変異p53発現と増殖能との関連性が示された。Primitive neuroectodermal tumorsにおいてnerve growth factor receptor (NGF-R)の発現を解析したが、未熟な神経系腫瘍でNGF-Rが高率に発現していた。さらにNGF-R陽性Medulloblastoma細胞では,NGF処理により細胞増殖の抑制と細胞分化の誘導が示された。特にhigh-affinity NGF-Rであるtropomyosin receptor kinase (trk)陽性Medulloblastomaでは陰性症例に比べてその予後は良好であった。しかし変異p53の発現とMedulloblastomaの予後には明らかな相関は認められなかった。さらにMedulloblastoma細胞よりlow-affinity NGF-R陽性細胞とtrk陽性細胞を選択 分離しNGFに対する反応性を検討すると、trk陽性細胞のみがNGFに反応して細胞分化が誘導され、Medulloblastoma細胞の分化におけるtrk遺伝子の関与が示された。 以上の結果より、Medulloblastomaなどの小児悪性脳腫瘍では高頻度にp53遺伝子の変異が認められ、細胞増殖能との相関が示されたが、患者の生命予後、再発までの期間、治療に対する反応性との間に明らかな相関は認められなかった。その反面、high-affinity NGF-Rであるtrk遺伝子はMedulloblastomaの細胞分化機構に関与しており、さらにその発現と生命予後との間に相関が認められた。以上の観点から今後Medulloblastomaの分化誘導療法において、trk遺伝子を標的とした研究を進める必要性が示唆された。
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