気管内挿管し人工呼吸下に筋弛緩剤で非動化した雄Sprague-Dawleyラットに4本の硬膜外電極を装着して脳波記録用とし、大脳皮質感覚運動野内にFeCl_3溶液(100mM)を5μl注入することにより、外傷性てんかんモデルラットを作成した。このモデルを使用して以下の結果を得た。(1)脳内に存在するけいれん誘発物質であるグアニジノ化合物(メチルグアニジンなど)は鉄イオン投与後に増加するが、これに対するエピガロカテキンの影響を調べた結果、鉄イオン投与30分後には線条体内のメチルグアニジン量が増加したが、鉄イオン投与直後に50mg/kgのエピガロカテキンを静脈内に投与すると、鉄イオンによる線条体内メチルグアニジン量の増加は抑制された。メチルグアニジンは活性酸素種がクレアチニンを酸化的に分解することにより生成されるが、本研究の結果は鉄イオンにより発生したメチルアルギニンがエピガロカテキンにより消去されるために内在性けいれん誘発物質の生成量が増加しなかったことを示唆する。本研究ではエピガロカテキンは鉄イオンの誘発発作脳波を抑制すること、神経伝達物質放出異常を正常化することをすでに明らかにしたが、エピガロカテキンはけいれん誘発物質生成抑制の観点からも外傷性てんかん発症予防に有用なことが明らかとなった。(2)ヒドロキシル・ラジカル(-OH)消去活性を持つ一酸化窒素(NO)の影響を検討するために、脳内NO量及びNO合成酵素活性(NOS)に対する鉄イオンの影響を経時的に調べた結果、鉄イオン投与5分、3時間及び3日後には投与部位の大脳皮質内のNOS活性は減少した。鉄イオン投与3分後にはまだ脳波にスパイク活動は出現していないことから、NOS活性の減少はスパイク活動の誘引の一つと考えられる。また、鉄イオン投与3時間以後はすでに激しい発作脳波が出現していることから、激しい神経活動によるdown regulationの為にNOS活性が減少したことを示唆する。
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