研究概要 |
脳血管攣縮時における脳動脈壁平滑筋細胞の情報伝達系の変化を調べるために,まずクモ膜下出血モデル犬の脳底動脈を用いて平滑筋細胞内Ca^<++>と細胞膜Ca^<++>-ATPase活性の組織化学を行った.Ca^<++>-ATPase活性は,脳底動脈を薬物により収縮させた場合には細胞内Ca^<++>の上昇に伴って活性化されたが,クモ膜下出血後では平滑筋により多くのCa^<++>が流入しているにも関わらず,Ca^<++>ATPase活性はクモ膜下出血直後より低下した.この原因として,クモ膜下腔で生じる過酸化障害が平滑筋細胞膜の障害を引き起こしCa^<++>-ATPase活性の低下をもたらしたものと推測された. 一方,Protein kinase C(PKC)を介して脳底動脈を収縮に導く平滑筋細胞膜Diacylglycerol(DAG)量は,クモ膜下出血後4-7日にかけて増加した.細胞膜PKC活性もDAG量の増減に呼応して変動した.攣縮極期の脳底動脈ではDAG-PKCを介する平滑筋収縮が重要な働きをになっているものと考えられた.しかし,このDAG増量の認められた時期には細胞内Ca^<++>は認められなかった.よって,クモ膜下出血後の細胞膜の細胞膜DAG増加には通常のPhospholipase系を介する経路とは異なった機構が存在するものと考えられた. 同じ細胞膜に存在するCa^<++>-ATPase活性とDAG量はクモ膜下出血後には全く逆の動態を示し,かつ細胞Ca^<++>とは無関係に変動していることが明かとなり,攣縮血管ではこれらの因子を制御している特殊な機構が存在しているものと考えられ,DAGの変動にも過酸化反応が関与する可能性が考えられた.
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