研究概要 |
二回くも膜下出血(SAH)モデル犬を用いて、脳血管攣縮の病態における細胞内Ca^<++>の増加に依存せずにprotein kinase C(PKC)を活性化させる系を介して発生する血管収縮機構を研究した。内因性PKC活性化因子である1,2-diacylglycerole(DAG)のレベルは初回のSAH作成後4日目から7日目に、攣縮する脳底動脈で有意に増加し、新規フリーラジカル消去剤である1,2-bis(nocotinamido)-propane(AVS)を同モデルに持続投与すると脳脊髄液中の過酸化脂質濃度を低下させただけでなく、脳底動脈の狭小化および脳底動脈壁におけるDAG量の増加を抑制した。これにより、くも膜下血腫から生じた脂質過酸化物が脳血管壁のDAG含量に影響を与えることが示唆された。 高速液体クロマトグラフィーを用いたアラキドン酸過酸化物であるhydrooxyeicosatetraenoic acid(HETE)の分析では、くも膜下出血中で比較的大量の12-HETEが産生されることが示された。脳底動脈をin vitroで12-HETEとともに孵置し脳血管壁のDAG量におよぼす12-HETEの効果を検討したところ、孵置後6時間で12-HETEは濃度依存性に血管壁のDAG量を増加させた。Ca^<++>-ionophoreを加えてDAG産生を促進させた条件下において、12-HETEはDAGの増加をさらに促進した。 以上より、くも膜下血腫中に生じた12-HETEはDAG代謝を阻害することによって脳血管壁にDAGを蓄積させ、脳血管攣縮の一因となる持続的なPKC依存性平滑筋収縮を引き起こす可能性が本実験で確かめられた。
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