椎間板変性はこれまで基質の研究が専ら行われ、基質を産生する軟骨細胞の側からの検討が極めて少ない。11例の頸椎症性脊髄症の前方除圧時に椎間板の前方1/2を、約8ミリ幅で一塊として摘出し、さらに2ミリ幅に調整した。軟骨細胞の増殖を、(1)細胞増殖マーカーであるPCNAをPC10抗体で、(2)増殖因子であるbFGFを抗bFGF抗体で免疫組織化学的に染色し、(3)プログラムされた細胞死のアポトーシスをin situに捉らえるGavlieli(1992)のTUNEL法により染色した。そして、それら3染色の陽性細胞の分布を分析した。 軟骨総細胞数に対する各陽性細胞の頻度はPCNA:4%、bFGF:5%、TUNEL:11%であった。髄核、軟骨板近傍、軟骨板、線維輪の椎間板各部間の比較では、髄核中央部の亀裂周辺で、PCNA陽性細胞数11±8%と高く、他の部位は激減し、軟骨板で0%であった。bFGFはPCNAより多めに染色された。一方、TUNEL陽性細胞はPCNAと無関係に椎間板のどの部位にも認められた。すなわち、細胞増殖は変性し亀裂が生じた髄核で盛んであり、アポトーシスは椎間板の組織に関係なく起こっていることが捉えられた。 細胞の増殖とアポトーシスは細胞数と組織の恒常性の維持に重要である。死んだ細胞は一般に皮膚や腸管上皮のように剥脱し、あるいはリンパ組織等で貧食される。しかし、椎間板組織は周囲を靭帯、椎体終板に囲まれ、しかも血管がない。本研究で、椎間板の軟骨細胞がアポトーシスの死に方をすることが捉えられた。この死んだ軟骨細胞は外界に剥脱できず、貧食もされない。したがって、椎間板の加齢変性に重要な係わりを持つと推測される。
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