1.自己分泌型運動因子(AMF)の分離、精製。繊維肉腫細胞の無蛋白培養液か、その産生細胞の運動能を刺激する蛋白因子を分離、精製する方法を確立した。これにより、イオン交換体への吸着様式の異なる2つの分子が得られたが、分子量、等電点が同じで、両者とも百日毒素により阻害され、単一の自己分泌型運動因子(AMF)であり、さらに産生細胞の転移能を増加させる事を見いだした。 2.AMFの骨肉腫におけるシグナル伝達系の解明。Cキナーゼの阻害剤であるスタウロポリンとチロシンキナーゼの阻害剤であるゲニスタインは骨肉腫細胞の増殖と非刺激運動能に影響を与えない濃度で、AMFによる刺激運動能を阻害した。Aキナーゼの阻害剤であるH-8はその阻害効果が見られなかった。AMFの細胞表面の受容体である糖蛋白gp78に対するモノクロナール抗体による刺激運動能も、上述のキナーゼ阻害剤に対して同様の反応を示した。以上の結果から、AMF‐gp78による運動能の発現に特異的キナーゼの反応が関与することが証明され、キナーゼ阻害剤の転移治療への応用が期待された。 3.慢性関節リウマチ(RA)および、悪性腫瘍におけるAMFとその受容体の発現。RA患者の関節液中には、上述の繊維肉腫細胞の運動能を刺激する因子が存在した。抗gp78抗体と拮抗的にgp78に結合する事から、AMFであると考えられる。また、AMF受容体のgp78の発現は、118名の大腸癌患者の生存率と、再発率に明らかな相関関係を見い出した。 最後に、今年度の目的であり、かつAMFの遺伝子解析の重要なステップでもあるモノクロナール抗体の作成は、3回試みているが、明らかな抗体産生hybridomaの分離に至らなかった。現在、再度免疫中であるが、今までの実験より想定される融合率を考え、次回は大量の融合細胞を作成する予定である。
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