研究概要 |
滋賀医科大学整形外科にて手術時採取し,ヌードマウス背部皮下に継代移植可能となった10数種類の悪性骨軟部腫瘍細胞に対して,担癌マウスの腹腔内にbromodeoxyuridine(BrdU)を注入後,摘出腫瘍を免疫組織化学的に処理し,腫瘍増殖の目安となるS期細胞の相対的比率(labelling index)を測定した。さらに同一切片上で,免疫組織化学的に各種腫瘍マーカー(S-100,prolyl hydroxylase,α-1-antichymotrypsinなど)の2重染色を行った。また良性腫瘍の場合はヌードマウスへの移植を経ず,直接手術材料片をin vitroでBrdUラベリングを行い,これにより以下のことが判明した。 (1)S期細胞の相対的比率(labelling index)は,必ずしも臨床的悪性度と比例しない。 (2)脱分化型軟骨肉腫において,主要な増殖部分はS-100陰性の脱分化部であり,S-100陽性の軟骨様部分はほとんど増殖しない。 (3)(骨,軟部)悪性線維性組織球腫の主要な増殖部分はprolyl hydroxylase陽性の線維芽細胞様細胞であり,α-1-antichymotrypsin陽性の組織球様細胞は主要な増殖細胞ではない。ゆえに悪性線維性組織球腫の組織起源は未分化間葉系細胞である。 (4)脂肪肉腫ではS-100陽性の細胞は増殖能が低下しており,逆にS-100陰性細胞が主要な増殖部分である。 (5)神経鞘腫(良性)では,多発性のものにBrdU陽性細胞が多い傾向にあった。 以上の結果より,単なるS期細胞の相対的比率(labelling index)と骨軟部悪性腫瘍の悪性度は比例しないことが判明したため,臨床的悪性度のさらに正確な指標を模索することを試みた。BrdUに類似のiododeoxyuridine(IrdU)を一定時間の間隔にて投与し,各々のラベリングの差により得られる真のS期時間が臨床的悪性度を反映する可能性が考察されたため,骨軟部腫瘍に対する本方法の応用手技を確立した。
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