研究概要 |
慢性関節リウマチ(RA)や変形性関節症(OA)などの関節炎では、滑膜・関節液中のプロテアーゼが軟骨基質の主要成分であるプロテオグリカンやコラーゲンを分解し、関節軟骨が破壊される。このようなプロテアーゼとして、stromelysinやcollagenaseなどのマトリックス分解酵素が知られている。従来細胞内プロテアーゼとして知られていたカルパインは、強力な軟骨プロテオグリカン分解活性をもち、マトリックス分解酵素としても機能していることがわかってきたが、滑膜・関節液のカルパインを研究した報告はない。我々は、予備実験で、変形性関節症(OA)の関節液中にカルパインが存在することを、すでに速報として報告した。今回の研究の目的は、関節液中のカルパインがどこで産生されるのか、カルパインがどの様な役割をはたしているのかを知ることである。平成5年度までの研究により、慢性関節リウマチ(RA)、変形性関節症(OA)の滑膜でカルパインの特異的な免疫組織染色性が観察された。また、関節液、滑膜のホモジネートからカルパインを分離し、その酵素活性をRA,OAで、比較定量した。その結果、RAとOAの滑膜抽出液および関節液から、カルパインによると考えられるカゼイン分解活性と、カルパスタチンによる活性抑制のピークが得られた。定量実験の結果、RA患者のμ-カルパイン、m-カルパイン活性の合計はカルパインに特異的な抑制物質であるカルパスタチンの活性よりも高かった。以上の研究結果は、カルパインの細胞外への分泌が、滑膜細胞によっておこることを示唆している。平成6年度の研究では、RAの関節手術の際に得られた滑膜組織から滑膜細胞を分離培養し、カルパインの抗血清を用いたウエスタンプロットにより、滑膜・関節液・培養滑膜細胞・培養滑膜の上澄み液におけるカルパインの同定を行った。その結果、培養滑膜細胞、培養滑膜の上澄み液にカルパインが証明された。今回の研究の結果を総合すると、カルパインは滑膜細胞から細胞外に分泌され、関節液中に貯留すると考えられる。また、カルパインはその強力な軟骨プロテオグリカン分解活性により、関節炎における軟骨基質の破壊に関与していることが示唆された。
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