研究概要 |
膝関節内靱帯である前十字靱帯は、一度損傷されるとその再建手術の成績は一定せず、種々の要因が影響を与えていると考えられる。手術時に再建靱帯を通す骨孔については、作製方向により、大きな曲げ変形やひずみ変形を生じ、早期に移植腱の破損につながる可能性があるが、この問題についての過去の研究は極めて少ない。本研究では、膝関節の骨の形状データーをコンピューターを用いて3次元に再構築し、膝関節の屈曲、伸展運動をモデル化した。さらに大腿骨および脛骨の前十字靱帯付着部を原点とする3次元座標軸を設定し、交差4棒リンク機構に従って膝関節の運動を規定した。このモデルを用いて、大腿骨および脛骨の前十字靱帯付着部から、任意の方向に骨孔を作製した場合、膝関節の屈曲、伸展で骨孔出口に生じる靱帯の曲げ変形,ひずみ変形を解析した。理論的解析による結果では、膝関節の屈曲、伸展で作製した移植腱には容易に100度以上の曲げ変形が生じる事が判明した。曲げ変形を最小にするドリル孔の至適方向は、大腿骨では前方に23度、外側に20度、脛骨では前方に50度、内側に24度の方向であり、この時に生じる最大曲げ変形は各々58度、18度であった。新鮮屍膝を用いた実験では、作製された骨孔を通した軟性のワイヤーを2方向のX線撮影で描出し、理論的解析結果と照合した。実験結果は理論的解析とよく一致しており、至適方向への骨孔の作製は従来の方向とは異なっていた、至適方向への骨孔作製により、移植腱の曲げ、ひずみ変形は減少し、早期の移植腱の破損を防ぐ事ができる事が判った。これらの結果は前十字靱帯再建手術の成績の向上にむすびつくものであり、臨床応用という点から考えても重要であると考えられた。
|