本研究では蛍光顕微鏡下にアドリアマイシン(ADR)の核DNAへの結合の有無を細胞単位で判定することにより、腫瘍細胞のADRに対する感受性を迅速に判定できるAdriamycin Binding Assay(ABA)を用いた多剤耐性悪性骨軟部腫瘍の検出について検討した。平成5年度はABAのヒト悪性骨軟部腫瘍への応用について基礎的に研究し、6年度は本法を用いて本学および関連病院で治療を行なったの悪性骨軟部腫瘍44症例の薬剤感受性を評価し、それらの症例の臨床的および組織学的な化学療法の効果と比較検討した。材料は生検ないし切除時に採取した新鮮腫瘍組織を対象とした。腫瘍組織は培養液中で細切した後、濾過して単離浮遊細胞液を作製した。これを10ug/mlの濃度のADRで37℃、30分間インキュベーションしたあと、生細胞を標識するために4℃ Fluorescein diacetate(FDA)液を加えた。ADRとFDAをPBSで洗浄したあと、細胞浮遊液をスライドガラス上にのせてカバースリップとレジンで密封した。この標本を直ちに蛍光顕微鏡で観察し、生きた腫瘍細胞の中で核内の明らかなADRの蛍光が認められる細胞の出現頻度(%AB)を算出した。その結果次のことが判明した。(1)化学療法後に再発・転移を生じた症例および初診時に転移巣を有していた症例ではADR感受性細胞の比率(%AB)は80%以下であるものがほとんどであり、%ABの低い腫瘍は薬剤耐性である可能性がきわめて高いと結論できた。(2)転移のない原発性骨軟部腫瘍で術前後の化学療法を施行した11例のうち切除標本のほとんどが壊死に陥っていた4例は全て%ABが80%以上であったのに対し、腫瘍細胞が明らかに残存していた7例の%ABは1例だけが90%を示したが、ほかは80%以下で7例の平均でも26.9%ときわめて低かった。この結果はABAが化学療法の効果とほぼ一致していることを示している。 以上の結果から、本研究で開発したAdriamycin Binding Assay(ABA)はヒト悪性骨軟部腫瘍の多剤耐性腫瘍を検出する優れた薬剤感受性試験であり、簡便で迅速に判定でき臨床応用に適していると結論した。
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