今回の研究の目的は、従来から行なわれてきた遊離脂肪による神経組織被覆が、必ずしも神経癒着防止に働かないという臨床的事実を動物実験によって確かめ、さらに水分透過性で組織癒着性が無いと言われるpolyvinyl alcohol hydrogel膜(以下PVAH膜)を用いて硬膜ならびに神経根を被覆し、脊椎椎弓切除後の神経組織癒着防止材になり得るかを調査することである。 まず初年度の平成5年には、実験動物をPVAH膜、遊離脂肪群、無処置群のそれぞれ各群12匹からなる3群に分けて手術を行った。各群は手術後の動物飼育期間を1か月、3か月の短期群、6か月、24か月の長期群の4群にさらに分けた。露出した硬膜と神経根を被覆する中間挿入材として、PVAH膜群では厚さ0.2mmのPVAH膜を使用し、遊離脂肪群では皮下脂肪組織より採取した遊離脂脂肪を使用した。無処置群では露出した神経組織を被覆材を使用せずにそのまま創を閉じた。実験動物の屠殺時には、病理組織学的評価のため手術部位の脊柱ならびに周囲の軟部組織を一塊として摘出し、ホルマリン固定を行い保存している。 平成6年度には、これらの検体材料を用いて脊椎手術により形成される瘢痕組織とそれによる神経組織との癒着反応を病理組織学的手法を用いて観察する。また、短期飼育群の結果を分析して学会報告する予定である。
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