研究概要 |
【研究目的】酸素・ブドウ糖の供給途絶による脳エネルギー不全状態にSpreading depression(SD)を皮質に負荷して、広範な脱分極がいかに脳虚血解除後の遅発性神経細胞障害の引金になっているかを病理組織学的に検索するのが目的である。 【対象および方法】雄Sprague-Dawleyラットを用いて、酸素・笑気・イソフルレンの麻酔下に気管内挿管し調節換気を行った。右側総頚動脈を露出し、右側の前頭骨と頭頂骨には径1mmのburr holeを開けた。SDの誘発負荷は、KCl(2M)に浸した線栓を右前頭部burr holeの硬膜外に塗布することで作成した。皮質DC-potentialは脳定位的に微小ガラス電極を右頭頂部burr holeから大脳皮質(深さ500μm)に刺入し、不関電極を頚部筋内に置いて導出した。脳低灌流用の右頚動脈クランプ(ULCC)あるいはHypoxia(PaO_2=35-45mmHg)を負荷する際は、血圧と血漿ブドウ糖は正常範囲に保ち2〜3時間維持した。ラットはSD、Hypoxia、ULCCの組み合わせで5群に分け、生存7日目に同麻酔下に脳潅流固定を行った。celestine blue/acid fuchsin染色で光学顕微鏡的に主に大脳皮質、尾状核、海馬の神経細胞障害の程度を各群で調べた。 【結果】SDは皮質DC-potential(約-20mV)が6〜8個/時間で出現することにより確認した。SD(3h)群(n=3),Hypoxia(3h)群(n=3)、Hypoxia+SD(3h)群(n=3)、およびHypoxia+ULCC(2h)群(n=4)では神経細胞障害は認められなかった。一方、Hypoxia+ULCC+SD(2h)群(n=4)では、SD誘発側の大脳皮質(III〜V層)に神経細胞死が優位に中等度存在するのが認められた。 【考察】遅発性神経細胞死に至るには脳低灌流・低酸素状態の持続だけでは不十分で、シナプス膜での脱分極が広汎に頻発することが必要と示唆された。この知見から、脳虚血解除後には適切な脳血流維持と広範な脱分極抑制の対策が重要であることが裏づけられた。後者に関して、Na^+チャンネル遮断からシナプス脱分極阻害をもたらす局所麻酔薬の脳保護効果が期待される。
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