【実験1】脳虚血前にリドカインをクモ膜下腔に注入して、虚血解除後の遅発性神経細胞障害が軽減されるかを検討した。ラットを全身麻酔し、生食水0.5mL/KG(対象群)、1%リドカイン5mg/kg(リドカイン群)を大槽に注入した後、10分間の前脳虚血を作成し再び回復させた。前脳虚血は低血圧と両側頸動脈クランプで作り、生存7日目に脳をホルマリン固定し、celestin blue/acid fuchsin染色した。結果:大脳皮質・海馬CA4の神経細胞死数は、リドカイン群が対照群より有意に少なかった。海馬CA1と尾状核の神経細胞障害は両群間に有意差はなかった。 【実験2】脳エネルギー不全のとき、大脳皮質のSpreading depression(SD)が遅発性神経細胞障害の発生に関与していないかを調べた。KC1(2M)に浸した綿栓をラット右前頭部burr holeの硬膜外に塗布してSDを誘発した。皮質DC-Potentialは脳定位的に微小ガラス電極を右頭頂部皮質に刺入し導出した。右頸動脈クランプ(ULCC)とHypoxiaは2〜3時間負荷し、生存7日目に脳を固定した。結果:SD群、Hypoxia群、Hypoxia+SD群、Hypoxia+ULCC群では神経細胞障害は認められず、Hypoxia+ULCC+SD群ではSD誘発側の大脳皮質に神経細胞死が中等度認められた。 【考察/結論】脳虚血ではシナプス後膜での脱分極がCA^<2+>の流入を促すとされるが、一方、脱分極にはNA_+流入が関与する。本実験では、NA^+チャネル遮断作用を有するリドカイン髄液中に拡散し、大脳皮質への浸透および貫通線維束の海馬への主たる投射を抑制して、遅発性神経細胞障害を軽減できたと推測される。また、遅発性神経細胞死に至るには脳低潅流・低酸素状態の持続だけでは不十分で、広汎に頻発するシナプス膜の脱分極が必要と考えられる。
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