低酸素および高炭酸ガス負荷により生じる呼吸循環系の反応は、生体の合目的代償反応と考えられるが、ある限界を越えるともはや代償し得なくなり、一挙に致命的な状態へと陥る。その限界領域に対する各種鎮痛薬の与える影響に関して解明することを目的に、呼吸機能の重大な器官の一つである横隔膜の機能を、循環の面からも検討するために、横隔膜筋の酸素代謝面での解析が可能かどうかを、確認することができた。 家兎を用い、気管内チューブを麻酔器と接続し調節呼吸を行なった。この状態でモデルの右季肋部を切開し、横隔膜を展開、組織酸素飽和度モニタープローブおよび、レーザー血流計プローブを、瞬間接着剤により同部に接着固定した。このモデルで各種呼吸条件下の横隔膜組織血流量、横隔膜組織酸素飽和度を計測し、高炭酸ガス、低酸素負荷に対する呼吸循環応答反応の指標として横隔膜組織酸素消費量を算出した。 その結果、自発呼吸時、調節呼吸時、呼吸抵抗負荷時、および無呼吸時の横隔膜酸素消費量は個々により差は見られるもののそれぞれ変動を示し、特に調節呼吸時に1.98±1.52ml/min/100gを示した横隔膜酸素消費量は呼吸抵抗負荷時には2.87±0.59ml/min/100gへと著明な増加を見せた。正常な横隔膜灌流圧の下では、横隔膜への血流は自己制御機構により支配されているとされ、呼吸抵抗負荷時には有意に増大することも証明されている。これらのことより、低酸素、高炭酸ガス負荷時の呼吸循環応答反応への、各種鎮痛法、鎮痛薬の影響に関する解析を行なう手段として、我々が行なった組織での血流および酸素分圧の双方を分析し、横隔膜の組織酸素代謝を検討する方法が有意義なものであると思われた。
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