本研究は、レーザードプラー血流量計を用いて侵害刺激に対する交感神経反応をモニタし、大量フェンタニル麻酔が手術中の過剰なストレス反応を制御できるかどうかを検討した。年齢65歳以上の冠動脈再建術患者20名を対象とした。対象を無作為に2群に分け、手術開始10分後までの麻酔としてフェンタニル100μg/kg投与による麻酔(大量フェンタニル麻酔群 N=12)および笑気66%、フェンタニル10μg/kgとジアゼパム0.2mg/kg投与による麻酔(GO-NLA麻酔群 N=8)を施行し両群で比較検討した。筋弛緩薬はベクロニウムを適宜使用した。血流量計プローブを手指に装着して皮膚組織血流を連続的に測定し、皮膚切開に対する交感神経反応をモニタした。また、麻酔導入前、挿管直前、皮膚切開直前、1分後、3分後および10分後の各時点で、血行動態および血中ノルエピネフリン濃度を測定した。 結果:皮膚切開に伴う交感神経反応は大量フェンタニル麻酔群では+(2)、±(2)、-(9)であったが、GO-NLA麻酔群では+(8)、±(0)、-(0)と両群間に明かな差がみられた。皮膚切開に伴う収縮期血圧の変化として、大量フェンタニル麻酔群では140±29mmHgから154±24mmHgへと上昇傾向(有意差無し)がみられただけであったが、GO-NLA麻酔群では116±16mmHgから150±23mmHgへと有意な上昇がみられた。また、皮膚切開前後3分において、心拍数は大量フェンタニル麻酔群では変化がみられなかったが、GO-NLA麻酔群では有意に増加した。さらに、血中ノルエピネフリン濃度は、大量フェンタニル麻酔群では皮膚切開前後で変化がみられなかったが、GO-NLA群群では有意の上昇がみられた。 以上の結果より、大量フェンタニル麻酔ではGO-NLA麻酔に比べて皮膚切開に伴う交感神経反応を強く抑制することが明かとなった。大量フェンタニール麻酔は手術中の侵害刺激に対する過剰なストレス反応を制御する上で優れた麻酔法であると考えられる。
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