1.重水が吸入麻酔薬(イソフルレン)の麻酔作用を増強することがわかった。 1)慢性投与実験:マウスに50%重水を含んだ水を2週間飲水させたときのイソフルレンMACは1.22%で対照群(1.33%)に比べ低下した。2)急性投与実験:マウスの腹腔内に5ml生理食塩重水投与後2時間のイソフルレンMACは1.03%で対照群(1.14%)に比べ低下した。 2.重水に麻酔作用及び鎮痛作用があることがわかった。 1)重水の麻酔作用:マウス腹腔内に生理食塩重水投与約3分後から外界からの刺激に対する反応が低下し、吸入麻酔導入時に観察される後弓反張が観察された。その後Righting Reflex が約10分間消失した後、徐に回復し2時間後には外見上対照群と差がなくなった。2)重水の鎮痛作用:熱刺激疼痛計を用いて重水投与後マウスが疼痛刺激に反応するまでの時間を経時的・定量的に測定した。投与量・投与後の時間に依存して、反応時間の延長と無反応率の増加が見られた。投与15分後から徐々に回復し、投与2時間後には反応時間は投与前値に回復した。 3.重水-アルコール混合系においてを用いて^2Dと^7Oのスピン-格子緩和時間を測定し、麻酔作用の強さと水和水の配位数および運動性が相関することがわかった。 4.以上の結果より、麻酔薬の作用機序に水構造の変化が関係することが示された。しかし、重水投与による麻酔作用の増強が、重水の麻酔類似作用による相加的な作用なのか、重水による吸入麻酔薬の薬理活性の増強による作用なのかは不明である。また、重水投与による麻酔薬の薬物動態の変化についても検討する必要がある。
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