一酸化窒素(NO)が血管内皮由来の拡張因子と同一物質であると確認されて以来、ガスNOの吸入が種々の肺高血圧の治療に応用されている。今回の研究では低酸素刺激により誘発された肺高血圧(HPV)に対する吸入NOの拡張作用機序について検討し、さらに犬の肺血管傷害時の肺高血圧に対する作用についても検討した。その結果、吸入NOはHPV反応を用量依存性(0-30ppm)に抑制し、内因性NOをその合成酵素阻害剤でブロックするとHPV反応は増大するが、吸入NOのHPV抑制作用は影響を受けないことを示した。またメチレンブルー(MB)によりNOの信号伝達系、guanylate cyclase(GC)を阻害した条件下では、アセチルコリンによる拡張作用はブロックされるにも関わらず、吸入NOによるHPV抑制作用は部分的に阻害されることを示した。さらに犬のオレイン酸肺傷害時の肺高血圧は吸入NOにより約50%抑制されるが、ガス交換能は改善しないことを示した。以上の結果は、吸入NOは血管平滑筋のguanylate cyclase-cyclic GMPを介して肺血管を拡張するが、この系が傷害された場合にもその作用が部分的に発現することを示唆している。敗血症やARDSなど肺血管傷害時における吸入NOの有効性については今後さらに詳細な研究が待たれるところである。
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