研究概要 |
年齢50-70歳の冠動脈バイパス術患者9名を対象とし,フェンタニールおよびチアミラールにて麻酔導入,気管内挿管後,経食道心エコープローブ(UST-5233S-5 アロカ社製)を挿入した。麻酔維持はフェンタニール,酸素,空気または笑気にて行った。乳頭筋レベルの左室短軸像を描出し,部分体外循環開始後,S&W社VC-50を用いて30秒間超音波撹拌を行った5%アルブミン5mlを大動脈起始部に注入しその造影過程をS-VHSビデオレコーダにて記録した(1)。続いてセボフルレン(Sev)1MACを吸入,動脈圧の変化を脱血流量を調節することにより補正し安定20分後に同様の測定を行った(2)。造影過程はビデオボードからコンピュータに入力し,640×480 pixelsの256階調のgray levelに定量化,最も狭窄度の高い罹患枝灌流域の内層および外層にそれぞれ関心領域を設定した。測定項目はコントラスト剤注入前の値で補正したpeak gray level,コントラスト剤注入からpeakに達するまでの時間(TTP),peakからの半減時間(T1/2)である。 内層および外層のpeak gray levelはSev吸入により有意な変化はみられず((1)36.6±17.8(2)37.0±22.6;(1)29.3±12.3(2)30.4±19.6),内層,外層比も低下しなかった((1)1.25±0.36(2)1.26±0.22)。またT1/2も内外層どちらにおいても有意な変化を示さなかった((1)4.7±1.1(2)5.2±2.9;(1)4.4±1.8(2)4.5±1.6)。TTPはSev吸入により有意ではないが両領域とも延長する傾向を示した((1)2.7±1.6(2)4.2±1.8;(1)2.8±1.5(2)4.3±1.9)。Sev吸入により新たな局所壁運動異常を示した症例はなかった。 以上より平成5年度の動物実験と同様にSevは冠狭窄心においてcoronry stealを引き起こす明らかな傾向を示さず,血圧低下などの循環動態の変化を伴わない場合には冠動脈疾患患者においても安全に使用できることが明らかになった。
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