1)実験方法:血管平滑筋のショック時の反応性を検討するために、人胃大網動脈を用いて実験を行った。胃切除術により摘出された胃切除標本から、胃大網動脈を取りだし、血管リング標本を作成した。その等尺性張力をストレインアンプ(日本電気三栄、6M82)で測定し、ペンレコーダー(ナショナル、VP-6527A)で記録した。また、血管で産生されるcyclic GMPの量を酵素抗体法を用いたcyclic GMP測定キット(Amersham)により測定した。 2)結果:人胃大網動脈標本は、1.0μMノルアドレナリンにより収縮し、その収縮の振幅はノルアドレナリン投与を繰り返しても10時間以上にわたりほぼ一定であった。エンドトキシン(10μg/ml)投与によってこのノルアドレナリン収縮は緩徐な経過で抑制され、12時間後には30〜40%にまで抑制された。しかし、nitric oxide(NO)産生阻害剤であるL-NAME、cyclic GMP産生阻害剤のmethylene blueによりこの収縮の抑制は回復した。また、エンドトキシンにより収縮が抑制された状態での血管平滑筋内のcyclic GMP量は増加しており、収縮抑制にエンドトキシンにより増加したcyclic GMPが関与していることが確認された。 3)敗血症ショック患者の血管の反応性について:外科手術後、感染により敗血症ショックに陥った患者の開腹術時に切除された腸管から摘出した腸間膜動脈の収縮能は低下しており、敗血症ショック時の末梢血管拡張が、in vitroで確認された。 4)結論:エンドトキシンショック時の血管平滑筋の収縮能低下が、人血管平滑筋において確認された。その機序として血管におけるNO-cyclic GMP系の関与が推測された。また、実際の敗血症ショック患者においても同様の結果が確認された。今後、この実験系を用いることにより、エンドトキシンショック時における血管作動薬・ショック治療薬等の効果の検討ができるものと考えられる。
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