主にこれまで、ハリ電気刺激後におけるFos蛋白の発現を、逆行性トレーサーを用いたICC法により検討してきた。Fos蛋白はハリ電気刺激開始後一時間で、脊髄後角の表層(I、II層)に発現しており、これらの細胞はほとんど脊髄固有のインターニューロンであることが分かった。三時間後、表層のFos陽性細胞は減少しており、深層(III層以下)により多くのFos蛋白が発現していた。視床下部の室傍核、視索上核、弓状核や下垂体前葉にもFos陽性細胞が認められた。またISH法により、ハリ電気刺激後1-2時間でppENKmRNAのシグナルは、脊髄後角において増加している傾向を示したが、ppDYNmRNAの発現には変化が認められなかった。 Fos蛋白を指標にしたこれらの結果は、ハリ刺激により神経系のあるニューロン群が応答したことを意味し、ハリ刺激の効果を細胞レベルで議論することが可能となった。特に、視床下部-下垂体系におけるFos蛋白の発現は、ホルモン分泌の調節に対するハリ刺激の関与が示唆される。ISH法による実験結果は、鍼鎮痛のメカニズムと痛覚抑制システムとの関係を細胞レベルで精力的に検討を進めた研究報告がほとんどなかったのに対し、意義ある基礎的データが得られるものと考えている。
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