我々は、ヒト精子を特異的に凝集する抗体を免疫的不妊症の女性患者血清から分離、精製した。この杭体は射精ヒト精子の後アクロゾーム部に存在する分子量80KDaの蛋白と反応する。又、我々はイムノアフィニテ-カラム、FPLCカラム等でこの反応蛋白を精製し、その性質を調べた。我々が発見したヒト抗精子抗体は免疫蛍光抗体法で射精ブタ精子アクロゾームと強力に反応した。また精巣上体体部と尾部及び精管より得られた精子とも全く同様の反応を示した。免疫ブロッティング法によって、この抗体は射精精子、精巣上体体部、尾部および精管より得られた精子蛋白と強力に反応し、その分子量はいずれも45KDaであることが判明した。この抗体はヒト精子のみならず、ブタ射精精子、精管内精子をも強力に凝集させる能力を持っていた。ブタ射精精子蛋白をCon-A-セファロースカラムにアプライし、通過分画の蛋白を分離し、免疫ブロッティング法で検討しても反応陽性の蛋白は検出されなかった。結合した蛋白をメチールマンノースで溶出すると反応陽性の蛋白が検出された。ところがこの溶出蛋白をSDS-PAGEで展開しクマジ-ブルーで染色しても相当するバンドは認められなかった。このことは反応蛋白はごく微量に存在する糖蛋白であり、ある種のグリコシレーションにより抗原性を獲得したものと考えられる。我々はブタ精子蛋白を抗原とするモノクローナル抗体を作製した。この抗精子抗体は種々の点で我々が発見した不妊症女性患者血液中に見られる抗体と類似点があった。この特異的な蛋白とそれに対する抗体の性質を調べる事は抗精子抗体の産生に起因する不妊症の基礎的解明に有益であるとともに、その実験動物モデルを作製することにより臨床的にも有益であると考えられる。
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