目的:腹圧性尿失禁の発症に深く関与する膣壁の生物物理学的特徴、および尿線の中断能力すなわち骨盤底筋群の収縮強度について検討した。 患者と方法:26名の女性腹圧性尿失禁患者と尿禁制の女性21名(子宮筋腫のため子宮摘出術をうける患者)を対象とし、膣前壁と腹直筋筋膜の剪断強度(shear strength)を測定した。剪断強度は先端を定量化したStamey針をdigital force gaugeに接続し、失禁患者は膣式膀胱頚部挙上術の際に、対照群は子宮摘出術の際に記録した。尿線中断は、73名の腹圧性尿失禁患者と42名の対照群を用い、尿流波計に排尿させて、尿線中断が完全に行えるか否か検討した。さらに骨盤底筋体操に参加した18名の患者でも、治療効果と対比して尿線中断を検討した。 結果:腹圧性尿失禁患者の膣前壁と腹直筋筋膜の剪断強度は、対照患者のそれよりも有意に減弱していた(p<0.01)。尿線を完全に中断できたのは、患者群が36%、対照群が76%であった(p=0.002)。骨盤底筋体操が終了した時点で尿線を完全に中断できたのは、成功群で63%、失敗群で50%であった(p=0.95)。 結論:腹圧性尿失禁患者の膣前壁と腹直筋筋膜の剪断強度は、対照群に比して有意に減弱していた。この事実は腹圧性尿失禁に罹患する患者の結合織には、先天性異常が存在することを示唆するものである。尿失禁患者の64%は尿線を途中で中断出来ず、骨盤底筋体操の治療効果と尿線の中断能力とは相関しなかった。尿線の中断能力は骨盤底筋群(主に肛門挙筋と尿道括約筋)の収縮能力を反映する。しかし骨盤底筋体操患者が示したデータは、尿禁制が骨盤底筋群の収縮力のみで決定されるのではなく、圧力伝導率などの多因子により保持されていることを示唆する者である。
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