研究概要 |
進行性前立腺癌或はホルモン療法抵抗性前立腺癌の治療には、シスプラチンがよく用いられる。しかしシスプラチンの繰り返し投与によりシスプラチン耐性細胞が出現し、治療効果を減弱させることが問題となっている。我々はシスプラチン耐性獲得機構を解明すべく、ヒト前立腺癌株PC-3よりシスプラチン耐性株 P/CDP4及びP/CDP5及び復帰変異株5R-5を分離し、以下の知見を得た。(1)P/CDP4及びP/CDP5はシスプラチンに対し、それぞれ親株の11倍、23倍の耐性を示す。さらにカルボプラチン、マイトマイシンC,エトポシド等のアルキル化剤に対しても2〜14倍の交差耐性を示した。(2)原子吸光光度計で測定したP/CDP4及びP/CDP5の細胞内シスプラチン蓄積量は親株PC-3の蓄積量の9〜30%に減少している。 (3)PC-3及びP/CDP5より抽出した細胞膜分画を一次元蛋白電気泳動で展開、比較するといくつかの分子量のバンドの発現量に差がみられた。(4)薬剤解毒に関与する酵素であるグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)活性を親株、耐性株で比較すると有意差はみられなかったが、同酵素の基質であるグルタチオン(GSH)量の比較ではP/CDP4で親株の2倍P/CDP5で4倍に上昇しており、シスプラチン耐性機構にグルタチオンによるシスプラチンの抱合解毒機構の関与が示唆された。(5)多剤耐性遺伝子であるmdrl geneの過剰発現はP/CDP4及びP/CDP5のいずれにもみられなかった。(6)アルカリ溶出法によるシスプラチンによるDNA架橋形成能を比較すると親株に比べ、P/CDP5においてDNA架橋形成量が減少しており、耐性株でのDNA修複能の亢進が観察された。以上よりヒト前立腺癌株PC-3におけるシスプラチン耐性獲得の機序として、シスプラチンの細胞内蓄積の減少、グルタチオンによる抱合解毒機構、DNA修複能の亢進などのいくつかの因子が関与していると考えられた。
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