アルコールによる種々の臓器障害の中でも、アルコールによる精巣障害に関する研究は精巣間質機能を中心に検討報告され、精巣のもうひとつの機能である造精機能(精細管機能)に対するアルコールによる障害の有無、その機序について検討した報告は殆ど認められない。そこでラットを用い、アルコール性造精機能障害のモデル実験を行った。当初精巣萎縮をきたす栄養条件が不明であったのでアルコール性肝障害を引き起こすとされるLieber処方にもとづいて36Cal%の炭水化物をエタノールで置換した合成液体飼料でモデル実験を行ったが、精巣萎縮は認められなかった。そこでアルコール性肝障害患者の栄養学的背景にもとづいた高脂肪、低蛋白食でエタノールを飼料総カロリーの46%含有する合成液体飼料を与えたところ精巣萎縮が発現した。萎縮精巣の生化学的、組織学的検討から精巣萎縮の実体は精細管内の精細胞の減少、精細管直径の減少として発現するものの、造精障害の主体はSertoli細胞と精細管壁であると考えられた。さらに精巣内アルコール脱水素酵素は精巣質でアルコール代謝に関係していることが示唆された。また 6週間の処置後得られたラット血清テストステロン値はアルコール群で対照群より有意に低下していた。しかし6週間後の血清LH値は有意な変動を示さず、血清FSH値はアルコール群で有意な上昇を示した。 以上からアルコール性精巣障害の機序には三大栄養素の組成とアルコール濃度が重要な要素であり、障害は精巣間質、精細管の両者で起こり、精細管障害の主体はSertoli細胞と精細管壁であると考えられた。
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