多核白血病(PMN)が特異的に分泌するロイコトリエンB4(LTB4)を指標として、PMNの機能がどのように妊娠状態で変化しているかを検討したところ、正常妊婦では非妊婦にくらべて明らかにLTB4の分泌量が低下していることが明らかとなった。この事実は白血球機能を抑制することにより妊娠という特殊な状態において発生しうる病態を解消している可能性が考えられた。妊娠中毒症患者のPMNを調べたところ、好中球のLTB4分泌能の抑制が本症患者では起こっておらず、非妊婦と同等の分泌能をしめした。すなわち好中球のLTB4分泌能の抑制は妊娠状態にたいする重要な適応現象であり、この適応の破綻が妊娠中毒症の発生に強く関与していることが示された。同時にこの抑制に不全が強いほど妊娠中毒症妊婦は早産の傾向と低体重児出産の傾向を示した。 さらにLTB4の前駆体であるアラキドン酸の好中球内の含有比率が低下していることも明らかとなったが、このことが好中球のLTB4分泌能の抑制の原因であることは必ずしも証明されなかった。 また膜脂質の組成を検討したところ妊娠の経過とともに不飽和脂肪酸の比率の低下がみとめられ、膜の流動性を低下させることによりPMNの活性化を抑制している可能性を示唆するものである。 これに引き続いて好中球のその他の生理活性物質を検討したが、実験法の検討にとどまっているのが現状である。現在、実験方法の精度と安定性の確認がほぼ完了したので、臨床試料の検討に着手するところである。
|