研究概要 |
ループスアンチコアグラント(LA)は最初、SLE患者血中に存在する、抗凝固能を示す自己抗体として発見された。この抗体はカルジオリピンをはじめとするリン脂質に結合し、リン脂質依存性の凝固反応を阻害すると考えられているが、臨床上、LA陽性患者は出血傾向を示さず、逆に血栓形成を示すことが報告されている。産婦人科領域においてLA陽性患者は流死産を繰り返すことが知られており、その対策上本抗体の性状解析は重大な関心事であった。自己抗体の性状解析において、最も有効な手段は目的とする抗体のモノクロナール抗体を作成することであるが、一般的なハイブリドーマによる方法では本抗体のモノクロナール化は困難であった。我々はEBウィルスによる形質転換と、ELISA法によるスクリーニング法を用い、同一患者より4種類のlgG(C-4,C-5,H-1,H-8)及び2種類のlgM(B-9,G-1)を分泌するモノクロナール抗体産生株の樹立に成功した。総ての抗体はカリジオリピンに対し結合能を有し、さらにlgGにおいてはこの結合能はβ_2GPIにより増強された。3種類のlgG(C-4,C-5,H-1)と2種類のlgM(B-9,G-1)はAPTT延長能を示したが、1種類のlgG(H-8)はAPTTを短縮し、他の抗体のAPTT延長作用に拮抗する性状を示した。抗体H鎖遺伝子のJ領域をプローブとしたサザンブロッティングの結果H-1とH-8は同一の抗体遺伝子再構成像を示し、点突然変異がAPTTに対する生理活性化の変化の原因と考えられた。この点突然変異による自己抗体の同一個体内における多様化は、自己免疫疾患モデル動物の実験結果とも一致するものである。さらにLA自己抗体の生理活性の検索において、これら抗体はヒト臍帯内皮細胞に対し、アポトーシスを誘導することが判明した。これはLA陽性患者の反復流死産の原因として胎盤における血栓形成以外に、直接の胎児障害が関係している事を示唆するものである。
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