妊娠初期脱落膜細胞に存在するサイクロオキシゲナーゼ(COX)につき杭COX-1抗体及び抗COX-2抗体を用いて検討したところ、COX-1は細胞質内に常に存在するのに対し、COX-2はインターロイキン-1(IL-1)等により誘導されることがあきらかとなった。また、これにともない脱落膜細胞のPGE2産生も促進された。合成副腎皮質ホルモンのデキサメサゾン添加は、COX-2の誘導とPGE2産生を阻止し、天然型黄体ホルモンであるプロゲステロンも同様にin vitroにおけるCOX-2の誘導とそれに伴うPGE2産生を阻害した。このことは、初期妊娠の維持のために合目的的と考えられる脱落膜PGE2産生抑制機構にプロゲステロンの関与する可能性を示唆すると思われれる。一方、肝細胞の再生などに関与する成長因子として発現された肝細胞成長因子(HGF)は、COX-2の誘導を介さない機構により脱落膜細胞のPG産生を促進することがあきらかとなり、絨毛細胞により大量に産生されるHGFのin vivoにおける役割が今後注目される。 COX-2の特異的阻害剤であるNS-398は、IL-1により促進される脱落膜細胞のPG産生につき濃度依存的に阻害し、10^<-6>Mで完全に阻止する。これは、脱落膜細胞の産生するPGが、本研究の無血清培地という条件下ではCOX-2にのみ依存する可能性と、IL-1によりリン脂質から放出が増加するアラキドン酸の利用がCOX-2に主に依存する可能性を示唆する。したがって、今後アラキドン酸のCOXによる代謝をCOX-1及びCOX-2の双方につき詳細に検討する必要がある。
|