本研究では、1.体内膜細胞の癌化に伴うフコース転移酵素(FT)の量的及び質的変化に関する解析2.体癌におけるMSN‐1認識抗原の発現に関与する因子の解明3.体癌細胞の増殖や転移に果たすフコシル化糖鎖の役割の解明の達成を目的とし、平成5年度研究において以下の成績を得た。 1.体癌株3株、頚癌株4株、卵巣癌株4株におけるalpha1‐2FT、alpha1‐3FT、alpha1‐4FT活性を測定した結果、体癌株では、頚癌株、卵巣癌株に比べ、体癌株で高率に発現してくるI型糖鎖の合成に関与するalpha1‐2FT、alpha1‐4FT活性の亢進を認めた。また、alpha1‐2FT、alpha1‐4FT活性が高い培養細胞株程MSN‐1の反応性が強くなる傾向が認められ、糖鎖の発現と糖転移酵素活性との間に密接な関連があることが判明した。2.体癌組織54検体において、MSN‐1認識抗原の発現(免疫組織化学染色ABC法)、およびp53遺伝子、kiras遺伝子の点突然変異のスクリーニング(PCR SSCP解析)を行った。その結果、MSN‐1認識抗原の発現と、p53遺伝子の点突然変異の出現との間には、負の関係が存在することが判明した。すなわち、MSN‐1認識抗原は、高分化な体癌程、早期の体癌程、リンパ節転移のない体癌程高率に発現するのに対し、p53遺伝子の点突然変異は、低分化な体癌程、進行した体癌程、転移を有する体癌程高率に出現した。3.SNG‐II細胞を、マイクロセレクターを用いて、MSN‐1認識抗原を強く発現するSNG‐Sと、ほとんど発現しないSNG‐Wに分け、そのMSN‐1認識抗原量に差があることを、MSN‐1免疫細胞化学染色、フローサイトメトリーを用いて明らかにした。SNG‐SとSNG‐Wにおける細胞増殖曲線より、両者の細胞倍加時間には差を認めず、また、CAS(Cell analysis cystems)を用いたDNA ploidyや増殖能の検索でも両者に差を認めていない。一方、両者のin vitroにおける形態には著しい差が認められ、SNG‐SではSNG‐Wに比べ多数の細胞内空胞が認められる。
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