本研究では、1.体内膜細胞の癌化に伴うフコース転移酵素(FT)の量的及び質的変化に関する解析2.体癌細胞の転移に果たすフコシル化糖鎖の役割の解明の達成を目的とし、平成6年度研究において以下の成績を得た。 1.正常子宮内膜8例、体癌組織14例についてα1-2、α1-3、α1-4FT活性を測定した所、体癌組織ではすべてのFT活性が有意に増加している事が判明した。さらに、高分化型体癌由来培養細胞株SNG-IIを体癌に特異的なフコシル化糖鎖であるMSN-I認識抗原(主としてLewis^b型糖鎖)の有無により2つの亜株に分別し、各々のFT活性を測定した結果、MSN-I認識抗原を強く発現する細胞(SNG-S)では、ほとんど発現しない細胞(SNG-W)に比べα1-4FT活性が著明に増加していた。以上より、体癌におけるフコシル化糖鎖の発現異常が、フコース転移酵素活性の支配をうけている事、中でもα1-4FT活性の変化が極めて重要な役割を果たしている事が強く示唆された。 2.SNG-S細胞とSNG-W細胞の組織接着能を、ヒト子宮及びリンパ節組織AMeX包埋切片に対するin situ adheSi on assayを用いて検討した所、SNG-WはSNG-Sに比べ約10倍の高い接着能を有する事、しかもその接着は、MSN-I認識抗原の前駆糖鎖に対するモノクローナル抗体により濃度依存性に阻害される事が判明した。同様の結果が、ヌードマウスを用いた両細胞の尾静注及び正所性移植による肺転移モデルでも確認さらた。以上より、体癌細胞の組織接着、転移能に、フコシル化糖鎖のひとつであるMSN-I認識抗原の前駆糖鎖が密接な関連を有する事が明かとなった。しかもこの前駆糖鎖の発現は、α1-4FT活性の支配を受けている事が示唆され、体癌の高転移能獲得の機序を解明する上でも、興味ある結果であると考えられた。
|