研究概要 |
(1)細胞内プロテインキナーゼ(PK)C活性剤である12-0-Tetradecanoyl phorbolacetate(TPA)がヒト卵巣癌細胞株(2008)および本細胞より樹立したシスプラチン(DDP)耐性細胞株(2008/C13^*5.25)のDDP感受性をいずれも約2.5倍増強させた事実(J.Biol.Chem.256:3623,1990)に基づき,TPAの他の白金製剤への作用を検討した。その結果,TPAは2008においてDDPの誘導体であるカルボプラチン(CBDCA),254-Sに対する感受性をそれぞれ2.8±0.0(p<0.01),2.3±0.7(p<0.01)倍増強させた。すなわちTPAの薬剤感受性増強作用は,DDP,JM-8,254-Sの白金製剤に共通する機序によるものと考えられた。(2)2008/C13^*5.25はDDPに11倍の薬剤耐性を有するが,CBDCAには2倍,254-Sには6倍の交差耐性を示しこれら白金製剤に共通する耐性機構を有するものと考えられる。この2008/C13^*5.25に対しても,TPAはCBDCA,254-Sの感受性を3.2±0.4(p<0.01),2.5±0.6(p<0.01)倍増強させた。このことからTPAの作用は白金製剤耐性機序とは関係なく発現し,耐性克服の可能性が強く示唆された。(3)TPAの薬剤感受性増強機序を解明すべく,まず細胞内白金蓄積に及ぼす影響を検討したが,TPAはDDP,CBDCAの細胞内濃度に変動をきたさなかった。(4)次に細胞内重金属物質に対し解毒作用として働き,白金製剤感受性の一因子であるグルタチオン(GSH)濃度につきTPAの作用を検討した。TPAは2008,2008/C13^*5.25のいずれにおいてもGSH濃度を変化させず,GSHはTPAの薬剤感受性増強能とは無関係であると考えられた。(5)(4)と同様の理由から細胞内メタロチオネイン(MT)濃度に対するTPAの作用をmRNAレベルで検討したが,TPAはMT発現を減少させるよりむしろ増強させ,MTもTPAの薬剤感受性増強因子とはなりえなかった。現在のところTPAの白金製剤感受性増強作用の機序は未だ不明である。
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