研究概要 |
妊娠中毒症では絨毛の脱落膜への侵入機序異常、すなわち胎盤形成不全の存在が示唆されている。一方胎盤形成過程には胎盤局所の凝固線溶系酵素および免疫系の関与が想定されている。本研究では(1)胎盤の基礎形成期である妊娠中期の羊水中凝固線溶系マーカーおよびサイトカインと妊娠中毒症発症との関連性、(2)妊娠中毒症発症後の羊水および胎盤組織中の線溶系酵素の動態、(3)正常満期産の胎盤よりPercol法にて絨毛細胞と脱落膜間質細胞を分離培養し、各々の細胞の線溶系酵素および細胞外マトリックス(ECM)の産生能。その結果、以下の成績を得た。(1)羊水中ではtissue plasminogen activator(tPA),tPA‐PAI‐1複合体(PAI‐C),fetal fibronectin(FFN)は妊娠17〜20週でピークを示し、以後漸減したが、plasminogen activator inhibitor1(PAI‐1)は妊娠週数に伴って増加した。また妊娠中毒症の臨床症状が出現する以前の妊娠15〜20週の羊水において、将来重症妊娠中毒症を発症する群では正常群に比べてPAI‐Cは有意(P<0.05)に低値、FFN,IL6,IL8は有意(P<0.05)に高値を示した。(2)妊娠中毒症発症後では羊水中PAI‐1とFFNは正常妊娠に比べて有意(P<0.01)に高値を示した。また絨毛と脱落膜の組織抽出液中PAI‐1とFFNを比較すると、PAI‐1は脱落膜>絨毛であり、一方FFNは絨毛>脱落膜であった。(3)胎盤の培養系では脱落膜細胞は多量のPAI‐1を産生し、一方絨毛細胞はFFNとtPAを産生することが明らかとなった。 以上の成績により、妊娠中毒症発症には胎盤形成過程において胎盤局所の線溶系酵素とその阻害物質、ECMおよびサイトカインが関与することが示された。また妊娠中毒症発症後は脱落膜におけるPAI‐1産生が亢進し、胎盤局所は線溶抑制傾向にあることが示唆された。
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