研究概要 |
糖尿病母体から生まれた新生児奇形発生の機序を明らかにする目的でin vitroの実験系であるラット胚培養系の確立を試み,母体の糖尿病環境下で遭遇する高血糖,低血糖,ケトーシスが胎仔に及ぼす影響を調べた。Newらの方法に従い,器官形成期に相当する妊娠9日目, Wister系ラットconceptusを分離し, 48時間回転培養後,頭臀長と体節数を観察して胎仔発育の指標とし,中枢神経の奇形を大奇形,それ以外の奇形を小奇形と分類した。培養液ブドウ糖濃度150mg/d1(対照群)における頭臀長(3. 60±0. 41mm)、体節数(25. 2±2. 6),大奇形発生率(5. 4%),小奇形発生率(6. 8%)はin vivoにおける妊娠日数相当であった。高血糖環境培養では,ブドウ濃度600mg/d1以上で大奇形発生率ならびに小奇形発生率が有意に上昇し,体節数は600mg/d1以上で有意に減少し,頭臀長は300mg/d1以上で有意に抑制された。ブドウ濃度50mg/d1の低血糖環境においても大小奇形発生,胎仔発育抑制を認め,培養の後半24時間を低血糖に暴露した場合,有意な大奇形発生率の上昇, 1時間のみの短時間低血糖暴露でも発育抑制と小奇形発生を認めた。また, 300mg/d1で48時間培養中, 1時間の低血糖暴露は奇形発生ならびに発育抑制の増強効果を生じた。β-ヒドロキシ酪酸を添加すると頭臀長は6mM以上、体節数は8mM以上で有意に抑制され,大奇形は6mM以上,小奇形は8mMでその発生率が上昇した。ブドウ糖とケトン体を同時に添加すると相乗的な胎仔発育抑制,奇形発生効果も示された。以上の結果から,胎仔への催奇形因子としてブドウ糖濃度,ケトン体の役割が示唆された。奇形発生機序として,初期発生において形態制御因子として機能するカドヘリン分子群の関与について着目し, Nカドヘリンポリクローナル抗体を作製し,奇形胎仔におけるNカドヘリンの発現異常について免疫組織化学染色法, Westernブロッティング法, Northernブロッティング法を用いて現在検索中である。
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